百年に一度しかないという「すごい木」の選考会がありました。
会長のモミの大王が、
「では、始めます。すごい木の推薦をお願いします。」と言いましたが、だれも手を挙げません。しばらく待ちましたが、だれもが空を見上げています。
モミの大王は、
「情けないことですが、会長なのに私が推薦する木は、実は一本もないのです。ごめんなさい。誰か、推薦してもらえませんか。」というと
桜の大王が言いました。
「100年前には、私は三本も推薦できたし、選ぶのが大変だった。でもな、近頃は、切られたり、枯れたり、散々なんだよ。前に、推薦した三本も、一本も残っていないし、会長と同じだよ」
「同じた」とカシの大王も言い出しました。
「この100年で、山の木は、切られてしまった。第一、木が立っている場所なんかなくなっている。俺様だって、いつまで立っていられるか」
空を見上げて、
「ちぇんそーはすごいね。昔は切られる木も大変だった。のこぎりや斧でギリギリとやられるんだ。痛いのなんのって。最後にはひどい悲鳴を上げていた。ちぇんそーは、一瞬だよ。一瞬。百年頑張ったって一瞬。あっという間に、薄暗い森が、太陽サンサンだよ。」
と言って空を見上げながら涙を流していました。
少し間をおいて
「私もだ」と杉の大王も言い出しました。
「100年前は、どうしても表彰したい木が、10本もあった。次回には必ず推薦する約束で待たせるぐらいだった。なのに、待たせたその木も、切られたり、土地開発で弱くなった地盤なんでもない災害だったけど倒れてしまった。残っちゃいない。」と空を見上げました。
「山や森の話だけじゃない」とイチョウの大王が話しだしました。
「秋には、紅葉並木だ何だと騒ぐけど、普段の並木なんてコンクリートに覆われて、息も絶えだえで、狭い地面の植木鉢に入れられて道路に並べられているようなものさ。空気は悪いし、雨が降ってもこっちが吸う前に側溝とやらにみんな逃げていく。その挙句、いきなり電線の邪魔だ、信号が見えないと、丸裸ぐらいまで切られてしまう。もう、限界なんだよ。元気な木を探す方が、くたびれてしまう。」
クスノキの大王が、続けて
「そう、街路樹なんて言われて、駅前で立っていると、ヒヨドリのやつがやってくる、それでうんこをするというだけで迷惑だ、迷惑だと、ヒヨドリが来ない様に、丸太みたいに、枝を切られるし、スピーカーを取り付けて音を出すし、眠ることも出来ない。精神的に追い詰められているよ」
「それなら、俺も同じさ、」とヒノキの大王が
「俺なんて、クリスマスシーズンだとなると、一か月もの間、イルミネーションなんてキラキラにされて、じわじわと熱いし、眠るなんて全く出来ないよ」と
ぐったりと枝をさすりながら、ヒノキの大王は、空を見上げました。
黒松の大王が、大きな息を吸ってから言い出しました。
「俺たちは、岩を砕いて根を張るし、潮風にも負けない。なのに、外国から来たあの小さな松くい虫にやられてしまう。渡り鳥には気をつけろとは言っていたが、今は何がどうしてやってくるかもう予測もつかない。どうしたらいいのか、分からない」
と言って空を見上げました。
槇の大王は、
「俺たちは、人間に好かれて、人間が好きな形に枝を切られても曲げられても我慢してきたけれど、家の建て替えなんて言い出すと、あっさりバッサリ切られて、もう、庭で見てもらうなんてことなくなったよ。見てほしかったら、盆栽になれ。てことさ」
樺の木の大王は、
「山や並木だけじゃない、みんなくたびれている。風や雨、雪にも耐えられるような木はもう少ない。空からは、あの酸っぱい雨が降ってくるし、暑かったり寒かったり、もうお天気までが俺たちをいじめてるって感じ」というと空を見上げて、
「もうこの会議の大王たちだって、次回は会えないんじゃないの」
とじろりとみんなを見渡しましたそして
「雨降れ、雨降れ、百年前と同じおいしい雨降れ」と謳いだしました。
「俺も体がムズムズ息苦しい。次回はもうこれない。ただ、後継ぎがいないんだよ。俺の代でしまいなんだよ」
と桐の大王は、空を見上げながら、
「本物の木が立っているところなんてもうない。すごい木なんて夢だよ。この会も、今日が最後になったと、みんなに言えばいいさ」と、顔を上げたまま
「しょうがないんだ」と言いました。
そんな大王たちが見上げた空には、100年前と同じ雲が、ゆっくりと流れながら、
「人のいなくなった村なら、立派な記念樹が育っているよ」と言いました。