知ったかぶりの話し

知ってるつもりの思い込みの感覚に、非常識な横やりを入れて覧る試みです

金をやるから自分でやれという福祉は社会的には閉鎖的になるの話

 重症心身障害児や、日常的に医療的ケアが必要な「医療的ケア児」向けの施設が、全国で大幅に不足しており、仕方なく障害児を育てる親が自ら、障害児を預かる施設を立ち上げるケースが増えているという報道がありました。確かに、茨城県ひたちなか市のビルにある多機能型重症児デイサービス「kokoro」を運営する社団法人の代表理事は、原因不明の難病で寝たきりで胃ろうから栄養を取り、夜間は人工呼吸器が必要な子の親です。鹿児島市の和田朋子さんも先天性の代謝異常で気管切開し、胃ろうもあった子供がいて、自身が転んで足を骨折したことを切っ掛けに、同じような立場の母親らに声をかけ、NPO法人を設立し医療的ケアを必要とする重症心身障害児を預かる「生活支援センターえがお」を開始し、現在は市内で三つの施設を運営しています。「医療的ケア児」は2016年6月の児童福祉法改正で初めて法的に明記され、政府は20年度末までに各市町村に1カ所以上確保することを目指して自治体に支援強化の努力義務が課されました。しかし、放課後等デイサービス施設は、全国に約1万カ所ありますが、重症心身障害児を預かる施設は354カ所(昨年5月現在)で、不足しているというのは事実です。重症心身障害児は、厚生労働省によると、全国に約1万7000人(19歳以下)いるとされ、05年度の推計9400人からは約1・8倍と増えているといいます。この状況に、全国重症児デイサービス・ネットワーク(名古屋市)は、母親たちに自ら事業所を運営するよう促し、設立や運営のノウハウを提供してネットワークに参加する事業所160カ所のうち、障害児の家族が主体の事業所は23%になるそうです。促しの理由は、「母親は障害児のケアの知識がある。研修を十分にすれば、社会進出にもつながる」としていますし、母親が自ら施設を立ち上げなければならないほど切迫しているとも言います。

 でも、考えてみると、母親が作ったという美談でもいいからこの課題を終わらせたいのは行政だと思うのです。実際このタイプの重症心身障害の施設は、まず看護師を確保しなければ成り立ちません。次にいつ医療的処置が必要で死ぬかわからない重心の利用者を見ても怖がらない支援員が必要です。寝たきりならば10人乗りの車両でも車いすで2名しか乗れませんから、定員5名なら、送迎だけでも最低2台が必要ですし、その運転手、駐車場、必ず添乗する介護者とこの人手不足の中で、人集めは通常の施設よりずっと大変です。しかも、運営が始まっても看護師を含めて一人でも休めば利用者にも休んでもらわなければならないぐらい、代替で誰でも出来るという業務内容ではありません。だから不足しているのですが、「ないなら作る」として障害児の親が施設を作るということは素直に喜べないものもあります。それは、それまで自分の子どもを無償で介護していた親が、今度は子供から給料を貰って介護する関係についての整理が十分ではないからです。現在の福祉の考え方は、利用者がサービスを買うということですから、親が経営する施設のサービスを障がいのその子が買うということになる時、親が経営していることの偏りはどうしても出てしまうからです。例えば、今日では、人手不足で看護師なんてめったに雇えないこの時代、親が自分でやってくれて、一生懸命友人等を口説いてママ友施設ぐらいになれば、人手不足で募集を掛けても問い合わせも来ないと悩んでいる法人施設に任せるよりずっと効果的ですが人材や労働条件などは片寄ります。また、支援上も親が伝えた通りのケアをしてくれないとか、ベッドに寝かせきりになっているなどの苦情やリスクも親ですから来ません。そして、親も自分の思い通りの介護をしているだけで給料となるのです文句もないはずとも言われてしまいます。福祉施設運営で、一つの柱となるのは、専門性も大事ですが、普通の職員でも介護は可能だということを証明することでもあります。というのは、障害を持つ人にとって「親がいなくなったら誰が守る」と言う不安に対して、今日では個人ではなく社会に委ねるが基本となっていますから、利用者にとっては、親ではない他の人との接点や社会・地域とのつながり方が必要なのです。そして、地域で暮らすには、地域の障害児通所施設などで必要な医療的ケアを受けられる環境が必要です。しかし、医療ケアは怖いと思っている、地域の障害児通所施設等は、ほっとして自分のことと考えることさえ失わせる原因ともなると思われます。今の学校でも行われている少しでも異質だと特別支援学校を薦め関与しないことでリスクを避けようとするように特別な人は、特別な環境に住んでもらうという絶好の言い訳になってしまう危険があるからです。さらに、親の運営する施設では特別が発生し、職員も特別な職場環境となりますし、他の親に対しては、親同士という親への押しつけが多くなります。そして、親が運営・経営している施設は他人が引き継ぐことは難しく、親族経営的になると管理も不徹底となります。子供の視線で考えてみると本当にいいのか疑問です。金をやるから自分でやれということになったら福祉は社会的には閉鎖的になります。医療的ケア児を育てる親は、24時間かかりきりで親は「働けない」「休めない」「兄弟の行事に参加できない」などの悩みを含めて負担の軽減は必要です。しかし、子供には親以外の人との関わりの中で成長できる場にしていかないと、障害がある子どもたちが地域で暮らしていける社会はずっと遠くなると思うのです。親に、お金を渡して自分たちで何とかしろの発想は、厄介者を金で押し付ける発想と変わらないと思うのです。