知ったかぶりの話し

知ってるつもりの思い込みの感覚に、非常識な横やりを入れて覧る試みです

福祉で営利を求めていけば歪んでいくのは当たり前の話

 こんな報道があります。『特養をめぐる首都・東京の歪んだ実態…23区から西多摩地域に紹介されてくるのは「生活保護受給者ばかり」』です。西多摩地域は、区内の土地が高く建設が難しい時期に区民向けに大量の特養が建設されてきた場所です。先行投資としての建設経費と特養収入を天秤にかけて回収見込みのない時代には、西多摩地域で建設計画がある段階で、「ベッド買い」と言われるほどに、各区が建設費を助成してでも確保してきた時代があります。例えば、あきる野市の統計では、現在13施設・1320床の特養(広域型)があって、入居者の6割超が市外とされています。しかし、老人施設は死亡と言う回転がありますから、良質な待機者が望ましいのに、23区から紹介されてくるのは、家族と縁がうすい生活保護受給者ばかりと言うことが最近の状況だと言うのです。その理由は、23区内でも利益の上がる民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を含めて、特養のベッド数を上回る勢いで急増しているからと言われています。2025年度までに、練馬区は633床、足立区は970床、世田谷区は1000床の特養整備を進めており、杉並区では2012年度からの10年間で1000床超のベッドを確保して西多摩に送る老人がいなくなっているのです。つまり、年寄りが老後をどこで暮らしたいかは関係なく、営利事業として成立するなら住み慣れた場所の施設を利用できますが、お金がないなら西多摩へ行けという事です。同様に、企業や官公庁は従業員の一定割合以上、障害者を雇うことが法律で義務付けられていると言うのは定着してきました。ここでは障害者が社会参加でき、一緒に働くことで障害への理解や「共生」が進むという理念があるとされてきましたが、障害者雇用をためらい罰金を払ってでも雇用したくないと言う企業の為に、貸農園などを企業に提供し、障害者も付録で付けることで障害者雇用率を実現すると言う、代行ビジネスが営利として成り立つ時代になりました。ある統計では、利用しているのが大手有名企業を含め約800社にも上り5000人近い障害者が働いているとも言われています。企業から見て「雇いやすい」身体障害者や軽度の人は奪い合いで既に雇用されている一方、企業はコンプライアンス(法令順守)だけでなく官公庁の入札で不利になることもあるぐらい法律が定着すると1人につき原則、月5万円の「納付金」を徴収されていると言うのは不利になります。そこでいざ雇用となると、働きたい知的障害や精神障害の人は多くいるものの、仕事内容や勤務時間などに配慮が必要な人しか残っていないと言う現実があります。そこに眼を付けたのが代行ビジネスで、貸農園を自社の農園として借りるともれなく障害者が付いてきて借りた農園の農夫として雇用すれば、自社に勤務させる必要も、会社の従業員が面倒見なくても雇用率が達成できると言うシステムなのです。ですから、雇用された障害者は貸農園で働くだけで雇用された会社へ出社することもなく、農業としての生産が出来なくても最低賃金として10万円以上の給与が保証されると言うものです。運営事業者は「雇用の場を創出し、障害者が喜んで働いている」とPRしていますが、利用企業の大半は農業とは無関係で、多くの場合、農作物が市場に出ることはありません。つまり、「雇用率が買える」事業として大いに流行っている事なのです。障害者雇用が、「一緒に働くこと」を原則としていてもこんな悪用が広がっているのは結局利益が出るからでもあります。福祉で利益が出るとなれば、福祉ビジネスモデルとして利益を得たい人が参画してくるのは当たり前です。福祉事業にも競争によってより質の向上が生まれるなどと大声で改革した人たちは性善説しか知らない人たちだったのでしょうが、どんな法律でも逆手にとって利益を上げる人は昔からいるという事は普通です。福祉で営利を求めていけば歪んでいくのは当たり前のことで、貧しい利益の出ない老人遠くへ追いやられ、社員の側に来てほしくない障害者は、窓際を越えた農園に収容される事になってしまうのです。福祉のビジネスモデルは収益が出ている程に歪んでいるのです。