知ったかぶりの話し

知ってるつもりの思い込みの感覚に、非常識な横やりを入れて覧る試みです

 業務上過失致死容疑書類送検の話

  平成29年の7月、埼玉県上尾市の障害者支援施設「コスモス・アース」で、知的障害のある男性利用者=当時(19)が送迎用ワゴン車内に放置され熱中症で死亡した事故で、約半年後に、警察は、男性運転手(74)と、担当だった男性職員(37)、元職員の女性(26)を業務上過失致死容疑で書類送検しました。事故当日に施設内で女性職員の体を触ったとして逮捕、起訴された施設元管理者の大塚健司被告(75)=強制わいせつ罪で公判中=については、男性がいないとの報告を受けていなかったので事故を予見できなかったとして立件が見送られました。

 施設経験者なら言えるどこの施設でも普通に実施していると思う利用者確認の機会は絶対に3回以上あったと言えます。それは、第1回は、送迎車が到着した時、ここでミスがあっても、第2回は、作業の開始時に挨拶と一日の業務説明の時、初めのあいさつや作業の説明もなしに利用者が勝手にばらばらと始めてしまうことなどあり得ません。社会で自立して暮らそうというなら挨拶の習慣づけは基本です。そこでもミスがあったとしても、第3回の昼食時には確実に不在が確認されます。なぜなら食事を食べさせないことは施設では虐待に当たる行為として徹底しているのですから給食が残っていればもう何が何でも確認すべき時です。だから、この時点でも行動しない施設は、虐待に当たるという危機感すら教えていなかった施設だったということになります。                                 

 男性は自閉症で、4月から施設に通い始め、普段の生活では介助を必要とせず、車の乗り降りも自力でできたそうです。施設の送迎用ワゴン車は通常、チャイルドロックしていますが、運転席へ向かえば出れないことはありません。男性は3列ある座席の最後列の右側に座り、倒れていた位置もほとんど変わらなかったということですから、ずっと暴れたりもせずに座っていたと推測されます。

 「コスモス・アース」が開設したのは、平成26年4月、それまでは、農家の空き家と会員の手作り小屋で活動しており、冬寒く夏は暑く雨風をしのぐだけの中で頑張ってきたと広報されていました。その理念は、“自然環境を守り、障害者があたりまえに暮らせる地域づくり”で、理事長は、大学の元客員教授であり、県健康福祉部長、社会福祉事業団理事長等を歴任のプロということになっています。ただしこの事件が発生している同時間に施設の女子職員を他室で触っていたと検挙されています。

 冒頭のように、この事件では、警察が「書類送検」を行いましたから、検察庁が裁判所に起訴して,裁判所が有罪の判決を出したなら「前科」となります。しかし、警察が、「書類送検」をしても、検察庁が起訴しなければ(いわゆる不起訴)なら前科にはなりません。ところが、「前科」のほかに「前歴」という言葉があって、検察に送致されただけでも書類送検されれば「前歴」という記録は残ります。

 だから、福祉に携わる人は普通に、業務上過失傷害・致死なんて言葉がいつ自分に振りかぶってもおかしくないと覚悟して、安全確保、リスク管理にうるさくなるのです。

 なぜなら、福祉は、自己防衛力の弱い人が対象となります。自分で自分を守る力が弱い人ですから、健常者なら怪我しない条件や病気にはならない状況でも、怪我したり病気になったり、最悪には死亡に至ったりします。

 コスモスアースの件でも、自分で車から降りれば良いだけのことが出来ないということなのです。誰かが支援しなければ、健常者からすれば極簡単で、誰でも出来ることが出来ないということです。しかもそれが生命を脅かすような事態であっても自分からは出来ないということなのです。しかも、自分で自分を守る力が弱いという範囲が障害により違うだけでなく、深く広い場合も多く、支援者が守らなければならない守範囲は案外広いということです。「こんなことまで」と思えることまで、確認しなければならないということがたくさんあるのです。そしてその確認は、地道で成果効果などとは一切縁のないものなのです。それを職員に教えていない管理者によって、働いていた3人の人が前科や前歴が付いてしまうことになったのです。

 今日、福祉施設では、職員の人員不足が続き、厳しくすると辞められては困るからと注意することも出来ない管理者も増えています。しかし、安全は人の手によってしか確保できないという原理原則の元、職員には、自分を守るリスク回避の方法を教えることは管理者の責務なのです。利用者を守ることを職員に押し付けることではなく、自分を守ることが結果として利用者を守ることに繋がっていることを指導できない管理者は失格なのです。職員に、守備の方法を丁寧に教えられないなら、管理者になるべきではないのです。自分の部下に、前科や前歴を持たせ人生に影響を与えるような事態になった責任を元の管理者は今も自覚できないかもしれませんが、職員を守れる管理者も今の福祉は求めていると思うのです。

 

 余談ですが、コスモスアースの広報誌に「 (前略)開所式を行い、当日の件は、マスコミ関係者にも案内いたしましたが、どの社もお見えになりません。世の中の本当の仕事というものはこのようなことだと思いますが(下線部筆者)、まだ世間の認識はそこまで届いていないようです。」という文面がありました。下線部の様な自分たちは「良いことをしている」という傲慢な態度が根底にあったと思います。結局マスコミは事件の時に何社も集まり、新聞には大きく記事となって出ました。福祉は、人の生活です。コスモスアースという施設は名前を変えました。