知ったかぶりの話し

知ってるつもりの思い込みの感覚に、非常識な横やりを入れて覧る試みです

ラーメンの命が付け汁の不思議の話

 世間には、ラーメンのうんちくは数あるのですが、なんで付け汁(スープ)ばかりが脚光を浴びて麺料理なのに麺にはほとんど触れられないのかという不思議があります。それは、ラーメン店と言っても、自家製麺よりも製麺所の機械で製造された麺を使用しているので麺のうんちくを話すことが無いからとも言えますが、どこのテレビ放送でも、付け汁造りに3日も掛かるなんてことばかりが強調されると、麺料理なのに麺はどうなのと聞きたくなってしまいます。一方、同じ麺料理の蕎麦・うどんは、麺への拘りが主流です。その為か、蕎麦、うどんだと店主が年寄りだったり修行に何年なんて自慢がありますが、ラーメン店では若い店主がスープづくりのアイデアを語ることが多いと感じます。そのまま受け取ると、製麺は技能が必要で、付け汁づくりはアイデアの多彩さが必要なのかとも思われ、ラーメン店の方が一発的で、意外と誰でも挑戦が可能だという感じもしてしまいます。インスタントと言われるラーメンが普及したことがラーメンを定着させた要因だとも思うのですが、即席めんでは、麺が拘りの主流でスープはお好みとなっています。家でラーメンがお店みたいに出来ない理由の一つは、生麺の場合、打ち粉がお湯をどろどろにして麺に絡みついて、べたべた感が出てくるからです。ですから、同じ麺の、蕎麦、うどんでも生めんで茹でる時は、たっぷりのお湯で茹でてくれと説明されます。ラーメンとの違いは、茹でた後に、蕎麦、うどんは冷水で締め洗いをすると言う工程がある事です。ですから、茹で方が上手に出来ない家庭の小さな鍋でもなんとかなるという事があります。しかし、ラーメンは、冷水締めをしませんから生めんの打ち粉が付きまといますので家庭の鍋の範囲だと一人前を茹でるのがやっとぐらいの限界が出てきてしまい、一玉茹でるたびにお湯を捨ててしまうぐらいでないと茹で上がりにどろどろ感が出てしまうのです。店の場合は、鍋が大きいということもありますが、まず業務用の機械麺なら打ち粉そのものが少なく出来ていますし、蕎麦茹機の様に、釜に火を入れっぱなしにして水を足し続けて垂れ流す方法によって打ち粉を排出することができます。麺に拘っている店なら深い釜で、お湯の中で麺が踊るようにして麺全体を一気に、茹で上げると説明したりもしますが、普通のラーメン店だと、釜の中に広がった麺を全部すくうのは大変だと、1人分ずつ小さな手ざるで茹でていることがみられます。そして湯切りをカッコよく振り回していることを見せて本格的だと思わせていますが、麺を茹でるとしたならいい方法とは言えません。何故なら、振り回して茹でた麺に衝撃を与えたとしても、うどん・蕎麦のように打ち粉を剥がしてしまうわけではありませんから、麺がべたつくだけです。湯切りの目的は付け汁が薄くならないようにお湯を少しでも減らそうとしているだけですが、洗濯の脱水の如く振り回しても、手ざるの中で浮かせて底に打ち付けても打ち粉は纏わりついています。要するに、機械麺で細く打ち粉が少ないから塊でお湯の中に入れても、何とか火が通るという事で、麺同士がひっつかないように被膜された打ち粉を引きはがさないと麺本来のおいしさを付け汁に絡めさせられないどころか、付け汁で麺を洗うぐらいでないと打ち粉は落ちないという事です。ここを考えても、ラーメン店では麺のことはやっぱり二の次なのです。ですから、ラーメン店ではだし汁造りが出来れば経験がほとんどなくても出店が可能と言う、駅ナカの茹で蕎麦と一緒なところがあります。蕎麦も江戸時代からの麺料理で、機械で麺が出来るようになったのは近年ですからそれまでは、全部手打ちだったのですが今日では、手打ち麺と言うだけでさも価値があるみたいな言い方をします。さらに「通」と呼ばれる人は、蕎麦の香りだの咽喉越しだのと言う褒め言葉を使いますが、付け汁に関してはさらりと流されて醤油ベースでお仕舞です。落語では、蕎麦にだし汁は、ほんのちょっとしか付けないのが通と言っていたすごいそば通が、死ぬときにたっぷり付けたかったなんて話もあります。そして、うどんはどうかと言えば、やはり手打ちなんてことやコシなんてことに拘っていて麺が命ですが、具材は意外と多彩で、付け汁も醤油や味噌がありますし、煮込みなどと言う調理方法や、水炊きやすき焼きの後に入れて食べるなど食事的要素も大きくなり、家庭料理のご馳走の時代もあります。ラーメンでは、付け麺などと言う事はあっても、スープと言う言い方が一般的で、スープも醤油から味噌、塩と様々で何でもありです。しかも、具材として載せるものも何でもありです。つまり、関心のない麺以外は、多種多様で次々と新商品も出しやすく広報や話題作りも広く出来ます。ラーメンと言う麺さえ神輿に乗っていてくれれば、スープと具材が何であってもいいという事が現象として起きてしまうのです。いっそのこと、麺料理などと言わずに、スープ料理の具が麺ですとでも言えば良い状態です。製麺所に、発注するときには、自分流の仕様書があって、麺も独自のものという事もあるとは思いますが、ラーメンにはかん水と言うアルカリの添加物によって出来る独特な麺ですから、かん水の配分から拘ると麺は蕎麦にも負けない技能が必要ですし麺を主役で楽しむということも出来るのにと思うと、スープ料理の具材の如く扱われている麺が哀れです。