知ったかぶりの話し

知ってるつもりの思い込みの感覚に、非常識な横やりを入れて覧る試みです

こんな研修で人は育たないの話

    東京都の相談支援専門員の資格研修に参加して、演習のあり方について苦言を言ったら、会場から排除されるという経験を持った私しが、縁あって他の県の強度行動障害の研修に参加する機会を得ました。この研修も厚生労働省の代理研修なので、講師となっている県の担当者は自分の自由に出来るものではありませんから、歯がゆいものなのですが、東京都のような高飛車で強引な押し付けをしないだけでも県の講師に同情する研修でした。しかし、内容はこんな研修で人は育たないと思ったので、長い文になりますが 報告したいと思います。

 

 研修当日のテキストから長い引用となりますが、まず提示しようと思います。(下線部は紫藤)

1、演習のねらいとテキストで説明されたのは、以下の文です。

 この演習では、2人の事例について、行動の背景を分析し、支援計画に活かすた

めの方法を学ぶことを目的とします。具体的には、①行動の背景を意識する周囲か

ら見える行動のみに着目するのではなく、行動に関連する障害特性や環境面の影響

などを踏まえて、本人の支援ニーズを探る。②支援のアイデアを柔軟に考える。

人の行動をより適切にし、また生活の質を高めるために必要な支援を、障害特性や環

境要因を意識して支援計画を立案する。

2、演習の方法は、氷山モデル方式によるグループ討議です。

  重度の知的障害のある人や自閉症の人が、本人が理解できないような指示を受

けたり行動を促されたりしたときに、激しい自傷行為や他害行為、または金切り声

をあげたりかんしゃくを起こすと、支援者の中にはそれらの行為を、本人の「問題

行動」として捉えてしまう人が少なくありません。(中略)一方、その行動が本当に問

題行動なのかを整理して考えることも必要です。

  たとえば、本人にとって、「その行動の意味は何なのか」、「他人に迷惑をか

けていることなのか」、「場面によっては、問題でなくなることもあるのか」、など

といった視点で見ることよって、問題となる行動の背景を探り、より適切な対応を考

えることに繋がっていきます。

  その行動の困難さ理解するために、氷山に例えて見立てるという考え方があり

ます。氷山は、水面上に見える部分だけでなく、水面下にある部分の方が大きいこ

とから、全体像を見る時には、その氷山の一角に注目するのではなく、水面下の隠

された部分を見ることが重要であるということです。この考え方を『氷山モデル』と

言っています。かんしゃくや奇声、他害・自傷為、不適切な行動、強いこだわり

といった行動を水面上に見えるものとして考えた場合、水面下にはそれ以上に多く

のあるいは大きな要因があることを想定して支援を検討していくことが必要となり

ます。

  自閉症の人の問題行動への適切な支援方法として、この水面下の背景を、障害

の特性(情報処理の困難さ、社会性・対人関係の特性、般化・関係理解の困難さ、

感覚処理の偏り…)と環境面(行動を引き起こす様々な状況、周囲の刺激、複雑な

環境)の両方の要因から検討することが大切だと言われています。(以下略)

3、演習として何を行うかをテキストでは以下のように言います。 

 この演習では、感覚過敏がある人たちの行動の背景を考える視点と支援について

考えていきます。重度の知的障害のある人や自閉症の人たちの中には、自傷、他害、

異食、かんしゃくなど危険を伴う行動を頻繁に示す人がいます。支援者は、その表

面的な行動だけを見てしまうと、その行為を止めさせようと考えることばかりに注

意が向いてしまうことが少なくありません。

 そして、適切な対応がされないことで、行動はさらにエスカレートしてしまいます。

  強度行動障害のある人たちは、周囲からの働きかけや刺激を取捨選択できず、

自分の中で整理することが苦手なため、結果として社会生活の適応に大きな困難を抱

え混乱した状態になっているものと考えられます。(感覚過敏の説明のため省略)

 長時間我慢すれば慣れるというものではなく、調節したり折り合いをつけたりし

ながら、本人が生涯付き合っていくものになります。本人が自らコントロールできる

手段や方法を検討することも大切ですが、支援者が特性を正しく理解し、配慮する視

点が欠かせません。

 

4、上記前置きの上で提示されたのが演習としての問題事例が、以下です。

●みゆきさんの、もっとも大きな課題は「テレビや物を破壊してしまう」ことです。

●みゆきさんは、地元の中学校の1年生で特別支援学級に在籍する知的障害を伴う自閉症

の女性(13歳)です。

●みゆきさんの特徴としては、言葉の表出はありませんが、教師の指示を受けて行動するこ

とはできているようです。

●入学して間もない頃に、ある問題が発生しました。みゆきさんの問題となっていることは、

食べ物の偏食が強く、特定のもの以外食べないことです。好きな食べ物はトンカツで、小

学校の頃にも給食時には他の児童のものまで食べようとすることがありました。また、ご

飯は冷たいままだと食べないため、レンジで温めていました。

●ある日の給食時間のことです。午前中、落ち着きがなかったことで、いつもの交流学級で

はなく、特別支援学級で給食を食べることになりました。ちょうどその日はトンカツが出

ました。体を揺らすなどの興奮状態が見られ、すぐに食べようとしなかったので、教育支

援員がトンカツソースをかけて本人に食べるように促したものの、食べようとしませんでし

た。結局、その日は給食を食べずに休憩時間となり午後の授業を迎えました。その時、み

ゆきさんが椅子から急に立ち上がり、教室内に設置してあったテレビを押し倒して破壊し

てしまいました。

●本人の興奮が収まらないので、数名の教員で本人の行動を取り押さえる事態になりました。

補足の説明 

○コミュニケーション(理解):言葉の意味を理解することは苦手。支援者のジェスチャー

反応しやすい。一部の単語は理解している。また絵や写真などには理解を示す。

○コミュニケーション(表出):言葉での表出はない。動作や物を指さすなどの動作が見ら

れる。

○社会性・対人関係:あまり自分から人に関わっていくことはないが、自分の思い通りにな

らないと人に対して叩く、つねる等の行動が見られる。

○学習面:見本があれば書くことができるが、意味を理解することは難しい。

○時間の整理統合:やるべき活動の優先順位をつけることが難しい。

○空間の整理統合:自分の持ち物や場所と、人のものとの区別や境界が分からない。

○感覚処理:偏食傾向がある。

○微細・粗大運動:ハサミを扱うことはできるが、粗大運動はぎこちなさが見られる。

○感情コントロール:興奮すると奇声が出て、体を大きく揺らすことがある。

○記憶に関すること:ルーチンの保持がある。

 各施設から集まった研修参加者は、主催者のグループ分けに従い6~7人のグループで、話し合うのです。大きな紙がグループごとに配られて、KJ法よろしく付箋に個人が書いて貼り、項目ごとにまとめていく、その間、県内の施設の責任ある立場の人たちが、ぐるぐると回りながらアドバイスをしていき、時間が来たら、グループごとにまとめたものの中から、どこかのグループが発表します。それを講師は、講評し、そしてまとめます。

 発表したグループは、ソースを勝手にかけたことが問題であるとか、冷えたご飯を温めるべきではなどの対応の不備とか、様々な討議の内容を発表しますが、感想の域は出ません。なぜなら、業務の職種が、児童から成人、通所から入所と様々で、施設の規模も、運営形態も全く違うだけでなく、実務経験も大きく離れた今日初めて会ったメンバーですから、お互いに交流会の範囲を超えられないのです。少しでも知っている人が説明役になるか、自分の施設での経験談になる程度で、演習としての論議にはならないのです。

 テキストでの演習のまとめは、こうです。(下線は紫藤)

重度の知的障害のある人や自閉症の人を支援するためには、表面的な行動や言動に着目するのではなく、その背景として考えられる障害特性や環境にフォーカスを当てる視点、すなわち全体像をアセスメントすることがとても重要であることが理解いただけたと思います。

 背景を含めた全体像を分析することで、支援者間で情報を共有すべき手がかりが見つけられたり、情報から本人を取り巻く周囲の環境を調整することで、強度行動障害と呼ばれる本人の混乱を回避できる可能性のあることが、改めて認識できたと思います。

 チームで支援を考えるためには、それぞれのスタッフが独自の考え方で対応してもうまくいきません。課題となる行動に対して、障害特性や環境・状況といった行動の背景を明らかにする共通のフォーマットは、チームで行動支援計画を立てるときに、情報の共有にズレが生じないようにするのに役立ちます。(以下支援者のあり方についてなので略します) 

そして、最後にわざわざスライドを用意してまで、講師が全体に説明したのは次のことでした。

 

  この課題には、正解というものはありません。この事例では、本人がソースの好みがあって、その後は自宅から好みのソースを持ってくることになりました。関西なのでソースの種類が沢山あり(7本程度のソースのスライドを見せながら)本人はこのソースが好きなんだそうです。

と、にこやかに笑ってお疲れさまでした。なのです。

 これだけの大仕掛けで、この演習で、正解とは言わずとも実はソースの問題でしたで、一体何が学べますか。

 氷山モデルの方法も、Kj法も正しい方法です。しかし、適切に活用したならという言葉が注意書きになければ何の意味もありません。あくまでも方法ですから、目的達成のために使用する手段であって知識をひけらかすものではありません。

 つまり、演習の目的や方法、演習の意味で語られたような内容に基づく考え方が例示されなければ、テキストの言う演習まとめのような学習にはならないと思うのです。事例があり、背景や本人の表現できない感情を見なさいと言って、最後はソースが違っていたでは、まるでクイズの様なものです。背景だとか、環境調整だとか、チーム支援だとかの支援を考える演習の目的や解決・考え方は全く示唆さえされていないのです。少なくとも、こんな考え方もできますよということを示さなければ論議にもなりません。まして、強度行動障害の対応という普通ではない障がいに対する考え方を演習する場で、お金も時間もかけた挙句に、講師の最後の説明が、「ソース」の種類でしたというのは、あまりにも情けないと感じました。

 

 もし私が講師だったら、この事例では、こんな話をしてみたいと思うのです。(偉い講師を批判したのですからから自分の考えを明示しなければフェアーではないので)

 

 私の考え

(1)分析として(提示された事例文書だけから考える事)

①給食の献立は、通常学校では事前に配られていてたまたまと感じたのは教師であって

 本人は知っていた可能性がある。

②記録には、交流学級でのトラブルや拒否の報告が無いので、予定に関して構造化されていたな

 ら、本人は行くものとして行動に組み込まれていた可能性がある。

③食べ物の偏食があるということは、食事量に影響があるので、献立は事前にチェックされているはずで、給食の強制をしないためには、対策が取られていたはずで、この日は好きなものなので食べると予測していたはず。

④午前中、落ち着きがなかったとしているのに何の取り組みもなく、教師は勝手に不安定だと決めつけています。行動障害の一つは感情表現が適切ではないということが理解されていれば、この落ち着きのなさの原因を探らなければなりません。給食の献立が好きなもので楽しみでハイになっていたかもしれません。つまり、不安で落ち着きがないのではなく、楽しみがあって落ち着きがなかったのではないかという視点です。同様に、朝、家庭で何かあったのかとか、朝の交友で何かあったのか考えますが、落ち着きなさを常に不安定と考える考え方は禁物です。人間は楽しみが待っているだけでも落ち着きなくなるのです。感情表現を本人視点で見直さなければならないと思います。

⑤構造化という視点からすれば、本人の予定行動を突然変えてしまうのですから、最も行うべきではないことをいとも簡単に行っています。強度行動障害には、構造化が大切だと散々座学で講義しながら、演習事例に明らかにおかしいことが載っているのに一言も言及がないのは、構造化を理解していないと思われます。

⑥予定をお前が落ち着かないから、お前のせいで変更したという教師の言い分に、どんな表現で抗議が出来ますか。私は、大好きなものを食べないは、本人の出来る最大の抗議だと思うのです。ここで、どうしたのと確認すべきなのに、早く食べろよとソースを掛けるということは、本当に構造化という視点がありません。行動障害の人には、その行動に本人なりの作法があって、例えばソースは右から左へと掛けるとかもあるものです。特に好きなものでは、私たちでもこだわる場合があって、人に触られたくない感情もあります。強度行動障害では、そんなことさえ配慮して対応することが日常的に望まれるのです。

⑦給食を食べずに午後になったということは、その給食はどうなったという視点が私は重要です。

 施設で、もし廃棄したなら、虐待事例として処罰の対象となります。食事は工夫して少しでも食べていただく努力が優先されます。当然本人の好きなものですから、根気よく働きかけることが基本です。しかし、この事例記述では、食べていないのです。普通怒って当たり前ではありませんか。

⑧抗議の意思表示で拒食しているのに、気が付きもせず、食事がかたずけられたら怒りませんか。静かな抵抗では駄目なら、机をひっくり返すしかないのではありませんか。本人はより効果的なテレビにしたようですが。

⑨そして、教師が何人もで抑えなければならなかったという、本人が暴れたという事、講義で否定している問題行動だけが強調されてしまっているのです。

⑩しかし、講師は、これはソースの種類だったと結論づけるのです。

⑪演習ですから、強度行動障害の人が、問題とされる行為に至った、原因や背景を考える時、一番重要なのは、側にいる人間の刺激です。この場合には、刺激のもととなっている教師です。つまり、教師はどんな刺激を与えたかという視点で検討し、その刺激は適正であったかの検討をしなければ、現場での具体的な支援の演習にはなりません。

⑫大事なことは、問題行動が発生した時は、謙虚に支援者は適正な刺激を提供できたかという考察です。失敗とかミスを探したいのではなく、どんな刺激が本人を傷つけるかという視点なのです。当然強制や決めつけは厳禁です。

⑬演習では失敗は許されますが、現実では失敗しない方がいいのですから、事例を通じて理念と実践の接点探しの視点での検討がされなければならないと思うのです。

 

私のストーリーは、こうです。

 みゆきさんは、今日は交流学級で大好きなとんかつを食べるということで、ハイになっていま

した。教師は、ハイの原因を探ることなく、ハイで交流学級に言ってトラブルでも起こされると

かなわないと考えました。過去には、好きなとんかつで給食時には他の児童のものまで食べたと

いう情報もあり、ここは、リスク回避として特別支援学級で食べていただくことにしました。

しかも、そのことを事前に言うと本人が興奮するかもしれないので、給食の時間になって言いま

した。すると本人が好きなはずのとんかつに手を出さないので、すきでしょ。おいしいよなどの

声掛けをしましたが、食べようとしません。時間が、無くなってしまうので、本人の作法とは関

係なくソースを掛けて食べることを促すだけでした。お落ち着きのない行動の原因を探っていな

い教師は、不安定が続いているとクールダウンのためにも出来るだけ関わらず、本人の気持ちを

確認することをしませんでした。ハンガーストライキの思いで、体まで揺らして私は怒っている

と意思表示しましたが、教師は、状況把握もしてくれない、話も聞いてくれない。終いには、食

べないのならと大好きなトンカツまで片付けてしまった。もう、これ以上我慢できない。人を押

せないからテレビを押しただけなのに、教師が寄ってたかって、押し付けるから抵抗したら、暴

れた興奮状態だとされました。こうして、多くの強度行動障がいの人は、興奮抑制剤を飲まされ

ことになるのです。

 

  私は、提示された事例で、こんなことを考えながら、東京都のように排除されないように、

みなさんの言う通りとしていましたが、講師のまとめに、驚き、こんな研修で人は育たないと再び

残念な気持ちになりました。